作品情報
難しいテーマにぶち当たる東野圭吾の長編サスペンス。
家を留守にしている間に強盗に入られ娘が殺されてします。犯人が仮出所中だった事から何とか望み通り死刑判決となるが互いの顔を見ていると辛いので離婚する事に。しかし11年後、離婚した小夜子が殺された。
離婚していなかったら2回も遺族になるところだった中原道正は自分と別れてから妻が何をしていたのか調べるうちに犯人にたどり着く。
償いとは何なのか?自分は犯人に何を望むのだろうか?
反省していない人の死刑は意味があるのか?難しいテーマにぶちあたります。
ネタバレあらすじ/虚ろな十字架
中原道正は小学2年になる娘の愛美が殺された事を妻・小夜子から報せを受けます。
小夜子が帰宅すると部屋は荒らされており愛美が横たわっていたのです。
犯人は仮出所していた蛭川和男でした。金品を盗むために両親の留守を狙って侵入したが騒がれたために殺して逃走したのです。
両親の望み通り仮出所中に強盗殺人をまた犯したので死刑判決となるが娘が戻ってくる事はないので虚しさが残ります。
そして懸命に前を見て歩もうとしたが2人は互いの顔を見ると幸せだった頃を思い出し辛くなるので離婚する事になりました。
11年後、今度は元妻が殺された
11年後、転職してペット専用の葬儀屋をしていた道正は、愛美の事件で担当していた警視庁捜査一課の佐山から小夜子が道端で倒れているところを発見され病院で亡くなったと知らされます。
小夜子の両親は娘を孫を殺害されただけでなく娘まで殺害された事で犯人を憎み絶対に死刑だと望みます。
町村作造という男が出頭してくるが医者である娘の夫からは援助を受けていたので動機が金銭目当てというのは納得出来ないでいました。
遺影の小夜子は笑っていたので離婚してからこんなに笑えるようになったのかと少し安堵する道正だったが小夜子は「遺族の会」に入会して活動しており殺人事件の裁判で死刑判決が出た時の写真だと知ります。
死刑廃止論
●日山千鶴子・・・ライターの仕事を親友の小夜子に紹介
●井口沙織・・・・万引き依存症で小夜子から取材を受けていた
沙織は母親を亡くしてからショックで自殺未遂を繰り返すようになり美容師の夢を諦め結婚するが家庭内暴力が原因で離婚しその後父親を事故で亡くしました。
それから万引きするようになったが小夜子が残した本には精神疾患であり治療が必要だと書いていました。
被害者遺族が被告人への質問ができる被害者参加制度が認められ検察とは別に死刑を求刑できる理由から小夜子の両親は被害者参加人になります。
弁護士から証言台に立ってほしいとお願いされた道正は小夜子の原稿「死刑廃止論という名の暴力」を読むと被害者達の気持ちが無視されていると指摘していました。
人を殺せば死刑という制度にしておけば愛美は殺される事はなかったのです。
繋がり
沙織・・・部屋には青木ヶ原の樹海の写真があり出身地は富士宮
仁科史也・・町村作造の娘の夫。慶明大学医学部附属病院の医者。富士宮出身。
同じ「富士宮」、そして小夜子は「慶明大学医学部附属病院」の案内状を持っていたので偶然とは思えず調べると2人は中学の同級生で恋人関係だったと知ります。
妊娠してしまうがまだまだ中学生とゆう事もあり誰にも相談できず苦しむ二人は風呂場で出産したあと赤ちゃんを殺し青木ヶ原の樹海に埋めたのです。
妊婦だった町村花恵は自殺しようとした時に史也に声を掛けられました。
父親である作造は働きもせず外には女がいました。母親が病死したあと家を出た花恵は子供も授かり幸せになれると思っていたが相手は詐欺師で金銭トラブルで自殺したのです。
文也は花恵のお腹の子と殺してしまった子を重ね合わせ自分の子として育てる決意をしたのです。
結末
沙織が自殺未遂を繰り返して21年間苦しんで生きてきたのは自分の子を殺してしまった事が原因でした。
小夜子は罪と向き合っていないから万引き依存症になるのだと説得すると史也に迷惑がかかるから無理だと言われます。小夜子は史也に会いに行くが仕事で会えなかったので妻の花恵にすべてを話すが作造に聞かれてしまい殺されてしまったのです。
作造は自分は自首するから娘を幸せにしてやってほしいと頭を下げ史也は嘘を背負っていく事を選んでいたのです。
史也と沙織は二人で自首するが何も発見されなかったので立件は難しいとされます。
重い十字架を背負い反省しながら生きるのと、ただ刑務所で過ごすのはどちらが償っているのか?
”遺族にとって動機など関係なく殺していい理由なんて何もない
”殺人者の自戒などただの虚ろな十字架でしかない”