作品情報
第65回江戸川乱歩賞を受賞した神護かずみ著書「ノワールをまとう女」
1960年9月5日生まれ、國學院大學卒業。1996年「裏平安霊異記」でデビュー。2011年「人魚呪」で遠野物語百周年文学賞受賞。他の著書に「石燕夜行」全三巻がある。
自宅は大久保の雑居ビル。話し相手はAIのユキエ。冷蔵庫にはビールと栄養ゼリー。日課は筋トレ。音楽はオールディーズ。服は黒尽くめ。
ネタバレになりますのでご注意ください
ネタバレあらすじ/ノワールをまとう女
トラブル処理を請け負う35歳の西澤奈美は仕事は特に好きではないが平和な日常に退屈を感じていました。
大久保の雑居ビルに住んでいるナミは「電気付けて」とAIユキエにお願いします。恋人の姫野雪江は仕事で先に帰ったと知らされます。彼女は児童養護施設でともに育ち二年前に再会して恋人となり、ユキエは雪江によって強引に入れられたアプリであり相棒として活用している。
一息つくと日本有数の衣料品メーカー美国堂の次長・市川から着信がある事を知らされます。
美国堂は傘下に入れた韓国企業の林社長が過去に反日発言をしていた映像がネットに流れ、しかも林が常務執行役員に収まっている事で「美国堂を糺す会」のデモ隊によって取り囲まれる日々が続いていました。
奈美のボスである原田は新社長の意向ではあるが上から目線の総括部長の宮浦から契約解除通告を受けていました。それなのに「仕事を依頼するみたい」と市川から知らされ驚きます。
話しによるとデモを沈静化できないのかと副社長と専務から叱責を受けたようだ。
潜入
依頼を受けたボスから「必要費込みで報酬600万だ」と言われた奈美はさっそくデモ隊に潜り込み「日本を生きる会・美国堂を糺す会」の代表エルチェを撮影します。
エルチェは「心の中の日本の会」を設立した三回忌を迎える木部雅巳の意志を受け継いでいます。
奈美は知り合いに工作依頼し「林田佳子」の名義を手に入れ「3年前に美国堂が韓国の公演を買取った時にもデモに参加しましたけど許せません、お手伝いさせてください」とエルチェに話しかけました。
木部は収入は少なく健康保険に未加入だったので友人の保険証を使い診察を受けていました。診療回数を増やし負担金をなくす医師からの提案を受け入れたがその事を運動を沈静化するために暴いたのが奈美でした。
彼女は「なんか誰かに騙されている気がする」とエルチェに伝えたあと自ら命を絶ってしまったのです。エルチェはその言葉がずっと引っかかっていると話し奈美は動揺しないよう気を付けます。
それぞれにハンドルネームがあり互いにプライバシーは詮索しないようで誰もエルチェの素性は知らないようでした。奈美は林田と名乗っているので「リンダ」と呼ばれるようになります。
しばらく経ち、名前はずっと耳にしていたナミと会わせてもらえる事に。ナミは自分の本名なので覚えやすかった。しかしやってきたナミを見てパニクります。そこにいたのは恋人の雪江だった。
「咄嗟に初対面のフリをしちゃった」と雪江は言ったが絶対に嘘だと直感します。
疑惑
奈美は美国堂の市川と打ち合わせし違反車両のナンバーを提供しテレビ局のカメラの配置、そして繋がりがある警察を要所で警戒に当たらせます。
デモが行なわれる日にETCカードを抜き取り高速道路料金踏み倒し未遂でナンバー2のハオウこと岩崎を逮捕させました。
「デモに行く途中に・・・」とワイドショーが取り上げてからエルチェに連絡すると「あいつとは縁を切る」とお怒りでした。
工作を依頼した黄から「朝子が何で命を落としたか分かったかも」と連絡が入ります。お世話になっていたお店の店主で胃がんを患ってから「ごめんね、愛している」と遺書を残し屋上から身を投げていました。
木部が命を絶ってしまった頃で奈美は何かおかしいと思いながらも逃げていました。黄に会いに行くと身を投げた日に屋上で男女が言い争いをしており、たまたまタバコを吸うため屋上にいた陳が朝子ではないかと思いスマホで録音していました。
すぐに病室に戻ってしまったが「あの時声をかけていれば命を落とす事はなかったのではないか」と悩み今になって何かの手掛かりになればと黄に話してきたのです。
朝子がバツイチで息子がいた事を初めて知ります。夫の名前は峰岸正樹で息子は比呂だとゆう事は既に黄が調べてくれていました。例え聞いたとしても何も変わらないと思い再生してみると朝子が何やら事実を伝えると男は「俺は純粋な日本人だ。お前なんか母親じゃない」と声を荒げていました。
息子の比呂の声、どこかで聞いたことがある声・・・エルチェに似ていると気付きます。
朝子がデモ隊の映像をよく見ていた事から、母親が二世とは知らずにデモに参加していた息子に朝子は真実を告げたのではないかと思います。
雪江ならエルチェの本名を知っているはずだと思うとタイミング良く雪江からデートの誘いを受けます。しかし指定されたホテルはボスの原田と会うときの密談の場所でありもしかして自分が何の仕事をしているのか知っているのではないかと疑います。
エルチェの名前を聞きたかったがベッドに押し倒され愛し合ったあと、目を覚ますと彼女はもういませんでした。
奈美は福島県で暮らす峰岸正樹を訪ねます。朝子は帰化したが韓国の風習が我慢できなくなり3歳の比呂を連れて正樹は出て行ってしまいました。正樹は地震津波を経験してから自分の行いを反省しせめてこの国のためにと原発作業員として働きはじめていました。反省した正樹はやり直そうと思って東京に行き朝子の店を訪れたがデモ隊にいる息子を見て自分のせいだと思いました。
母親は亡くなったと嘘を付き、誇り高き日本人だと言い過ぎたことで、おかしな偏った思想を持った子に育ててしまったのだと・・・。奈美はエルチェの写真を見せると息子だと認めたが朝子には何も伝えていないのでどうして分かったのか疑問を抱えていました。
奈美は思った通りだと納得し帰ろうとしたが「比呂は活動家として有名らしいな、前にも爺さんが訪ねてきたよ」と言われ特徴を聞いてボスの原田だと気付きます。
遺言
糺す会から連絡が来なくなってしまった奈美はアジトに仕掛けてした盗聴器を聞くと「ナミの大手殻だ。美国堂が引っ繰り返るような材料を手に入れた」とエルチェが話していました。
「2週間時間をくれ」
奈美は市川に電話します。その時期に株主総会があると知りエルチェの本名を伝えると単元株式数を購入していることを知ります。
待ち合わせしていた雪江がやってこないのでAIユキエに「姫野雪江の名がネットにあがってない」と質問すると彼女が死亡した内容のネットニュースがあると知らされます。
所持品だけが彼女の物ではないかと疑ったが警察に知り合いだと告げ対面させてもらうと彼女に間違いなかった。
悲しみに暮れるなかユキエが「彼女のメッセージが残っている」と言いました。
奈美は自分が発見されたコインロッカーにいきます。ママとはコインロッカーの事だろう。541103と追加料金を払うとロックは解除されUSBが出てきました。
2年前、不倫を穏便に闇に葬るための仕事で相手が幼馴染みの雪江だと気付き奈美は引き受けました。それから恋人関係になったがコンピューター関係に強い雪江はそれからボスに雇われていました。
雪江が残した資料と奈美が知っている情報、すべてが繋がっていきます。美国堂社長のスキャンダルの証拠が雪江からエルチェに渡っていました。
奈美は確認のため朝子のあとを引き継ぐ千里に原田の写真を見せると予想通り来店していた事を知るが黄が朝子の敵だとエルチェに会いに行ったと知り急いで追いかけ勝てる方法があるからと止めます。
エルチェが接触していた国田を調べると株主総会の設備を請け負う会社のスタッフだと知り盗聴してYouTubeにあげる事を知っていたのでネットで拡散するのだろうと確信します。
そして市川に連絡を入れ「あなたと仕掛けたあれがエルチェの手に渡っている」と告げました。
結末/ノワールをまとう女
総会が行なわれるプリンセスホテルで黄はパソコンを7台並べ作業に取りかかります。
予想通りエルチェがやって来るのと同時にYouTubeには総会の生配信が流れました。
社長は質疑応答に無難な答えて切り抜けていくとエルチェが立ち上がって議長を呼んだので奈美はそのタイミングで黄に指示します。
エルチェは警備員に強制的に連れて行かれる途中に「社長は韓国女優と何した?みなさんYouTubeにアップしたので拡散してください」と叫びました。
「反日発言の目立つ韓国女優とホテルに行き、更に役員を韓国から招き収益を韓国団体に垂れ流す公私混同は許されない」の文面のあとスキャンダルが流れるはずでした。しかし映像は社長と社長夫人であり奈美が指示して黄が差し替えたものでした。
「この映像は見ての通り捏造です。社長を貶めようとする糺す会の仕業です」の文面を見てエルチェは困惑して呆然とします。
ネット上には「糺す会の代表エルチェが社長の愛妻家ぶりを暴露」と嘲笑の対象となり活動は沈静化すると予想されます。
黒幕
奈美にはまだやる事がある。原田が帰ってくる前に家にお邪魔して待ちます。どうやって入ったんだと驚かれ雪江の情報だと答えます。驚いていたので芝居は結構だと言い放ちます。
原田が自分を排除しようとした社長と宮浦にダメージを与えるために企てた事でした。原田は奈美が侵入してナンバー2の男を逮捕させ沈静化させた事に内心驚き、エルチェに接近するよう命じておた雪江にスキャンダルを届けたのです。
しかし、この映像はもともと関係が3年前から続いていた市川から相談され奈美が用意していたものでした。
発足した糺す会が「美国堂は韓国の団体に寄付している」と非難したときに市川から相談を受けていました。内部文章が出たのでどこから漏れたのか気になるのと3年前のデモの再来を市川は避けたかったのです。
副社長の川北を疑っていたので韓国女優と密会している映像を作り罠を仕掛ければ嚙んでいるか分かるとアイディアを出したのです。もし流出しても社長と夫人にはしっかりとしたアリバイがあるので捏造だと証明できるものです。
川北から社長には何もなかったがデモ沈静化の依頼を受けてからなぜかエルチェの手に渡りました。原田が美国堂と契約を結んだのは川北から前社長の北原を紹介された事は知っていました。
市川と自分が繋がっているように、原田と川北が繋がっていると考えればすべてが繋がってきたのです。原田はまさか身内が作った捏造とは思いもしなかっただろう。
雪江が残した告白文にはハッキングして手に入れた内部文章や林が反日発言した映像を流したことなどすべて原田の指示でやった事が書かれています。
それだけではない、美国堂に自分の有効性を示すために木部を使ったのも原田だった。木部の遺言となった「誰かに嵌められている気がする」は奈美ではなく原田の事だったのです。
原田は観念したようだが雪江は自殺したと言い張ります。
しかし雪江が最後に残した文
「すべてを漏らさずに受け取って、止まった神は小さな目ですべてを見ている」
奈美は意味は分からなかったがここへ来て分かりました。総会屋だった頃に原田にすべてを教えた亡き山形先生が持っていた針が動いていない時計だ。
雪江はそこに隠しカメラを設置していたのだ。
原田は離脱を伝えたとき、「俺のすべてを伝えたお前が背を向けるのは許さない」と山形から片方に青酸カリが入った二つのコップを差し出されました。
原田はそれで生き残ったのだと長ったらしく話し雪江を挑発し自ら飲ませたのでした。だが胃酸のない者に青酸カリは効きません。
原田はそれを知っていて両方に青酸カリを入れて殺していたのです。原田は念のため解毒として亜硝酸アルミと酸素を交互に吸入していたのです。
それを読んだ奈美は「すべてを否定はしませんが人生の最後に手を染めたものは赦さないし何も受け取りません」と言い放ち出て行きます。
おそらく山形先生が渡したコップには青酸カリは入っていなかっただろう。勝負をした原田にすべてを託し自ら命を絶ったのだ。
原田は「万事よろしく」と遺書を残し拳銃自殺しました。
感想/ノワールをまとう女
物語は面白いと思います。映像化されたら必ず見ると思う。
ただ、正直読んでいてイライラしてしまったのが正直なところ。すべてが後出しで回りくどく感じてしまった。
最後の原田の長ったらしい話は「もういいから」って思ってしまった。奈美と雪江が知り合いなの分かってて任務に当たらせるのは考えが浅すぎないか。
個人的な好みの問題だが最後は単純にしてほしかった。
原田はすべて暴露されそうになったので雪江を殺した。その証拠を針が止まった時計から奈美が発見しただけで良かった。そして愛する雪江の復讐を果たしてやれば良かった。なんせ雪江だけでなく他の命も奪っていたのだから。
回りくどく感じながらも話は面白かったし「すべてが繋がるのだろう」と楽しみにしながら読み進めたが最後の原田の話から急に退屈さを感じたので読後感がよろしくない。
私自身、苦手な話だったから尚更そう感じたのかも知れない。